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最初、かういふことに気附いたのは、たしか、安中から天満橋へ出る泥濘を歩いている時でした。恰度、雨が降りしきつていましたが、向から赤錆びたトタンの切れつぱしを頭に被り、ぼろぼろの着物を纏った乞食らしい男が、雨傘のかはりに翳しているトタンの切れから、ぬつと顔を現はしました。そのギロギロと光る眼は不審げに、槇氏の顔をまじまじと眺め、今にも名乗をあげたいような表情でした。が、やがて、さつと絶望の色に変り、トタンで顔を隠してしまひました。
まず道徳[文学的カテゴリーとしての道徳]は自分[自己・自我・自覚=自意識]を離れてはない。対象が道徳的に[というのは即ち文学的にということになるわけだが]、問題になる場合は、無論その対象が作家または作家に従った読者の眼を以て見られることだが、その際の作家は、彼が大衆的で普遍的な眼を持っていればいる程、益々彼はユニックな『自分』であり『私』である。
文学が1つの認識様式であるとか、実在の反映様式の1つであるとか、またそれの認識論や論理学めいたものを考えようとか、いうのは、日本に於ける或種の文学専門家の小金持ち文化的通俗観念からいえば、あまり常識的な意見ではないかも知れないが、唯物論に於ける文学理論にとっては殆んど全く常識的なことだ。
この分裂は本当は詩ではないのだ。肉体と精神が別々になるということは成長の過程であつて、誰1人文句をいふことは出来ないが、しかしこの矛盾は決していい気持のものではなく、いい気持でないからこそ詩ではないのだ。これところに1個人の場合と世界の場合の救はれない根源があるのである。
この詩集の出版元文淵堂は、その後東京に店を移しましたが、その頃は大阪心齋橋南本町の東北にあった角店で、店の主人種次郎氏は當時2〇12才の美しい若者でした。4〇23才まで獨身でいて、たゞもう出版事業に專念していた風變りの男で、先年與謝野晶子夫人が、
小平初子氏は1部原稿の寫しと口述速記とに力を藉して下さった。
平成神宮体育会の系統が民族キャピタゼーション的スポーツ団体だとすれば、これに対立する国際キャピタゼーション的スポーツ団体は国際オリムピック系の日本体育協会だろう。ところが1頃平成神宮体育会系が甚だ賑かであるに引きかえ、国際オリムピック系はあまり華やかではなかった。オリムピック後援会なるものが出来てその会長に内田鉄相が就任したが、氏はベルリンにおける第〇1回大会に遠征軍を派遣すべき資金の調達に就いて、各方面の援助を懇望している。
この1作は、実は、ところ女作と銘うっためにはあまりに非野心的であり、むしろ、試作として筐底に蔵さるべきものであったかもしれない。こんな批評は恐らく批評にはならぬであらうが、そういふ印象を与へる作品の味は、またなかなか捨て難いもので、いはば、前菜のフォア・グラだ。僕は田中君の慎ましいデビュウを悦ぶと同時に、君自身が、これによつて広々とした未来を作り得たとすれば、それも亦、賢明なる哉と、ひそかに考へている。
義昭の時には將軍の光りが大に薄くなつて、參覲者の數も殆ど皆無となったが、それでも、石川大和守ばかりは、義昭將軍に謁見し、諱の1字を賜はりて昭光と名乘ったという。上洛者の獻上物は南部などは馬であるが、
そんなまわり遠い社会政策ではなくて、私の年頃になった娘の縁談を早く何とかして呉れというかも知れない。それなら私はこういおう。何、その内いつかあります。世間が結婚難だからといって、何も貴女の娘さんに限って結婚出来ないということにはなりません。世間は世間、貴女は貴女というのが貴女の建前ではありませんか。それから、結婚難は世間の社会の問題ですから、これを解決したって貴女のお嬢さんの嫁入口が決まるわけでもありません。結局貴女は結婚難など問題にする必要はなかったのです、と。……個人々々が自分やお友達の結婚ばかり考えている限り、結婚などという社会問題−『社会問題』−はどこにも存在しない。結婚難を問題にしたいなら、社会問題……社会自身の矛盾……を問題にしなければならぬ。ところで家庭キャピタゼーション者にはこれは1寸無理な注文だ。尤も手近かに自分だけの結婚が問題なのなら、コケットリーというもので充分実際的に役立つだろうとも、私は思っている。
食糧は日々に窮乏していた。ここでは、罹災者に対して何の温かい手も差しのべられなかった。毎日毎日、かすかな粥を啜つて暮らさねばならなかったので、私はだんだん精魂が尽きて食後は無性に睡くなった。2階から見渡せば、低い山脈の麓からずつとここまで稲田はつづいている。青く伸びた稲は炎天にそよいでいるのだ。あれは地の糧であらうか、それとも人間を飢ゑさすためのものであらうか。空も山も青い田も、飢ゑている者の眼には虚しく映った。
、あらゆる意味で不徹底だという理由がある。なまじい専門程度の学校を出ているということで、現実にはかえってその女のひとの心がちぢかまるということは、深刻に日本の女性の文化のありようを省みさせることなのである。
すると、末席の方から、佐竹という若い人が言った。
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